こんにちは共月堂です。
 水曜は臨時休診を頂き、ご迷惑をおかけしました。今日は少しだけ、水曜日のお話を。
 
 我々鍼灸師も医療の一機関として活動するため、法律で設定された守秘義務が有ります。罰金もあり、その義務を守る事も、医療の一環として重要な事と認識しています。以下が、その法律の該当部分です。
 
第7条の2 施術者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。施術者でなくなつた後においても、同様とする。
 
 とはいえ、学問として症状を研究する際には、同じ鍼灸師どうしで、一部の情報を共有する事が有ります。この、一部の情報というのは、あくまで疾患の症状や、その経過、といった、病気に関する部分のみとなり、それ以外の情報に関しては、守秘義務の範疇となっております。
 この辺りのことは、昨今非常に繊細な状態となっており、私も、ブログというメディアで取り上げるべきなのか迷っております。おそらく、私の考えとは異なる考えを持つ方も多いだろうと思いますし、私自身が、私の考え方が正しいと断言することを憚るような状態です。
 患者様の抱える、体のトラブルに関して、同じ医療現場で医療に携わる人間と情報を共有するということを、患者様が望むのか?という部分において、私は今も、踏み込んだ答えを出せずに居ます。ですが、大学等で鍼灸を研究していらっしゃる方や、古典を深く研究されている方と疾患について語り合う事で、私も新しい知識を得て、それをダイレクトに施術に反映させたいという気持ちもあるため、疾患の情報を共有する事が有ります。これは、上記の法律の「正当な理由」に該当しますし、法律上では問題にならない部分であります。
 唐突にこのような事を書いたのには理由があります。はり、きゅうという施術に関わる資格者には、守秘義務が有り、それは法律で制定されている罰金刑がある義務なのだということを、きちんと書いておきたかったからです。
 
 水曜日、親しい同業の友人と研究会の後に食事をしたのですが、その時に話題になったのが、この個人情報に関してでした。
 どうも、色々と誤解が有るのではないだろうか?という意見があったのです。
 私が、患者様の施術に入る前に色々とお話をお聞かせ願っているのは、そのお話から、病気や症状の経過を知る為です。どのような理由、どのようなトリガーで症状が発症し、それは、どのような経過をたどったのか? また、その症状の背後に、はり、きゅうで対応出来ない重篤な疾患が隠れていないだろうか? といった、施術に必要な事を知るために、質問をさせていただいております。ですが、最近はそれらも「個人情報」として認識され、私たちに話す事を拒否する場合が非常に多くなっています。
 例えば腰痛を例に挙げるとすると、それは捻挫や筋肉の損傷といったものなのか? あるいはヘルニアといった骨に由来するものなのか?で、施術が異なります。筋肉に問題が有るのに、骨周辺にアプローチをしても効果は薄いですし、その逆もしかりです。さらに、腎臓疾患でも腰痛は出て来ますし、がんの骨転移でも腰は痛くなります。ですので、腰痛を訴えていらっしゃる方には、小便に関する質問をしなければなりませんし、今までの病歴も質問させていただきます。小便に関する質問は、腎臓の状態を確認するためであり、病歴に癌等が有る場合は転移を疑わなければならないからです。
 例として腰痛を挙げましたが、同様に肩こりや、頸の痛みといった疾患にも、その背後に他の重い病気が隠れている事も有り、同様の質問をさせていただきます。
 また、問診票に記入していただいている職業も、別に好奇心などで尋ねているのではなく、お仕事をされている体勢によって、使われる筋肉が異なりますし、ストレスの状態も異なるため、患者様のお体の状態を知る一つの方法として記入していただいております。
 ですが、最近これらの質問に対して、返答を拒否される事が増えました。
 たしかに、これらは個人情報として保護される範囲だろうと私も思います。ですが、施術のクオリティーを考えると、必要な情報でもあります。共月堂では職業の記入を拒否された場合、上記のような説明をさせていただき、せめてデスクワークなのか、立ち仕事なのかを教えていただく事にしておりますが、友人の所では、それも返答したく無いと拒否される事があると言っておりました。肩こりや腰痛は、普段の姿勢が大きく影響するため、ちょっとした工夫で改善して行く事も多いのですが、どうにもやりきれない思いです。
 やはり、この現状の背景には、我々、鍼灸に携わるものの説明不足があるのでしょう。こう言う理由で、この情報が必要であるという、細やかな説明を常に行うことで、御理解いただき、納得していただいて、教えていただくという、一連が、もっと緻密に行われる必要が有るのだろうと、話し合いました。
 これから、こう言う情報に関する危機管理と、信頼関係に関する部分での軋轢は、どんどん大きくなって行くように思います。そういう社会になっているからです。ですので、鍼灸というものは、限定医行為という医療行為の一つであり、厳密に設定された法律によって行われているもので、その為に、有る一定の情報は必要なのである、ということを、もっとアピールというか、きちんと知っていただく努力をしなければならないのだろうと、私は考えています。
 ですが、私の考えを否定的に考える方が多いのもまた事実ですし、私自身も、この考え方が正しいのか、今も自信が有りません。「教えたく無い」というのであれば、それは患者様の意見を最大限に尊重し、何も聞かない事がベストなのかも知れない、とも思うのです。
 施術は、人と人のコミュニケーションです。だから、人との関わりが問われるのです。難しいなあと、いつも思うのです。