こんにちは共月堂です。
 先週末より、共月堂の隣のアパートが取り壊される事となり、解体工事が始まっております。当方としては如何ともしがたいことですが、工事の騒音で、患者様に不快な思いをさせてしまったなら申し訳ない気持ちで一杯です。
 
http://www.acupuncture.com/newsletters/m_jan11/acupuncturebrain.htm
 今日は少し、海外の記事を紹介します。
 Acupuncture Changes Brain's Perception and Processing of Pain, Researchers Find という題名の記事です。「鍼灸は脳において知覚と、痛みのプロセスを変える」とでも訳したら良いのでしょうか? 内容としては、鍼の施術によって脳の知覚を司る部分に大きな動きが有った事を科学的に実証しているという記事になります。
 
 当然ですが、生きている人間を解剖する事は現在では不可能ですし、ましてや脳が何を処理しているのかを解剖の側面から知る事は困難です。何かを感じている最中に、脳で、どのような変化が起こっているのか?を知る事は、fMRIが一般的になった最近まで、非常に困難であったと聞いています。
 ですが、最近ではこのような形で、鍼灸のメカニズムが研究されているのです。これは、非常に喜ばしい事だと私は思います。鍼灸が魔術や超能力といった、一部の人間にしか行使出来ない事のように考えられている風潮が根強く残る日本では、このように科学的分析が行われて、根拠がしっかりした鍼灸が、より必要ではないか?と私は考えているからです。つまり、科学的根拠に基づいた訓練をしっかり受けた施術を行えば、個人に依存する事無く、一定の結果が出せる鍼灸が、広く行われると良いなと考えている訳です。
 科学の良い所は、その再現性であると私は考えています。プロセスが解明されることで、原因と結果が常に一定の結びつきを持たせることが出来るため、そのカノンに則って行動を再現すれば、必ず一定の効果が得られ、それは誰でも訓練すれば再現出来るのが科学です。そして、これこそ医療に必要な事だと思っています。
 
 今まで、鍼による鎮痛効果は様々な仮説と機序が考えられて来ました。今では、その中の幾つかの機序の複合効果であろうと考えられています。そして、この「脳の変調」という現象が確認されたことは、鍼の更なる応用が期待出来る可能性を秘めています。
 つまり、鍼は「打たれた局所」だけの反応ではなかったと言う事です。
 鍼を打たれた時、その打たれた場所だけの反応や変化で痛みが変質したのではなく、もっと上、脳と言う場所でも変化が起こっていたと確認されている訳ですから、これは、鍼によって積極的に脳にアプローチが可能であると言う事も意味します。例えば、気分障害のようなもの、例えば、パーキンソンのようなもの、こう言った疾患に対しても、アプローチが無意味ではないという事です。
 もちろん、上記に例としてあげた疾患の最前の治療は投薬を中心とした西洋医学でしょう。鍼灸が主体になると言う事は無いと思います。ですが、サポートをする事が可能になると言う事は、非常に意味が有る筈です。
 むろん、それだけでは有りません。痛みと言う機序に脳が深く関与している事は知られています。そして、痛みの中には脳の関与が非常に大きな痛みと言う物が有ります。例を挙げると幻肢痛と言う物が有ります。これは、事故等で手や足を欠損してしまった方が、その無くしてしまった肢体に痛みを感じるという物です。痛みを感じている場所自体が欠損してしまって存在しないのに、まるでそこに肢体が存在するように痛みが生じるという疾患ですね。こうなると、痛みが局所で起こっている訳も無く、脳に深く依存した痛みであるといえます。つまり、このような痛みに対して、鍼灸はアプローチしうるのだと言う事も出来る訳ですね。
 また、上記記事のような研究の結果として、痛みに対してより深い理解が可能になるのなら、それはより高度な鍼灸治療が実現出来る可能性も示唆します。
 ですから、私は、このような記事を読む時心が踊るのです。
 
 とはいえ。上記の記事が、完全な根拠であると考えるには、まだまだ症例が少ないし研究の深さも足りないでしょう。ですが、こう言った研究が、さらに大きな規模で、さらに深く勧められる事を私は期待して止みません。