こんにちは共月堂です。
 今日は奇穴のお話を少しだけ。
 
 奇穴(きけつ)という名称から、何やら特別な意味合いを持つような印象を持たれるかもしれません。実際に、そのようなイメージで色々書かれているものを呼んだ事も有ります。
 鍼灸師経穴を使って施術をするのは、その経穴が臓腑に連絡していると考えているからです。この辺りは観念のお話なので、少々考え方が複雑なのです。鍼灸が医療として開発されたのは、おそらく数千年前と考えられています。実際、数千年前のミイラに、経穴を使った治療を施した痕跡が見つかっています。その当時は、経穴に刺青をいれて治療としていたようで、それで解ったのです。
 それらを体系としてまとめて本という形にされたのが、前漢時代。今も多くの人に読まれている黄帝内経(こうていだいけい)が、それとされます。この当時、いわゆる解剖学の知識は乏しかったようです。解剖自体は行われていたという記録は見受けられます。戦争の際に、殺した敵兵の腹を開き、腹の中を調べて食料事情を推測したというような事は記録に有ります。
 臓器のおおよそと、恐らくこのような作用であろうという事は解っていたようですが、それ以上は解らなかったというのが当時の様子だと推測されています。そのような状況で「病気はおそらく臓腑の不調であろう」という推測から、その不調を改善した経穴と、臓腑を関連づけたのは自然な流れでしょう。
 そういった一連から、経穴は臓腑に連絡していると考えるようになりました。
 このような、臓腑と連絡している経穴と、それを繋げたラインを十二正経、または正経十二経絡と言います。
 奇穴というものは、コレ以外の経穴という扱いです。
 端的に言ってしまえば、臓腑とは連絡していない経穴ということになります。
 そのような奇穴で有名なものというと、こめかみにある太陽という奇穴があります。よく、頭痛のときにこめかみを指でグリグリと押した事が有るかとおもいますが、そこが太陽という奇穴ですね。
 奇穴は臓腑に連絡していない為、根本的解決には至らない経穴ですが、局所においての状態改善の力は大きく、鍼灸師は患者様の状態を見て、これらを使い分けて行きます。
 たとえば、この前の乗り物酔い。
 内関という経穴は臓腑に連絡している経穴ですが、奇穴を使うと知れば、掌の親指と人差し指の骨の間あたりなどは有名です。
 もう一つ。蘭尾(らんび)という奇穴でのエピソードを。
 この奇穴、足に有る物ですが腹痛に特に効果があります。経絡としては胃経のライン上に有る為でしょう。ですが、この奇穴が特に効力を発揮するのが盲腸のような急性の腹痛の沈痛。知り合いの鍼灸師さんのお話ですが、彼の奥様が夜に腹痛を訴えたんだそうです。お腹の様子を見てみると、マックバーネの圧痛点に反応があり、盲腸の危険性がある。とりあえず救急車を呼び、救急車が来るまでの間、蘭尾に鍼を打って瀉法という手技を行っていたそうです。
 奥さんが病院に着いた頃には、奥さんの腹痛は大分緩和され一安心という状態になっていたのだそうですが、今度は「腹痛が無いのはオカシイ!」という事で、医師が診察してくれないという状態へ。状況を説明しても「鍼で痛みがとれるわけがない」の一点張りで、そうこうしているうちに奥さんの容態も徐々に悪化。
 押し問答の末に超音波画像診断をしてもらったら急性の盲腸と判明し、そのまま手術となったんだそうです。
 なんとも、複雑な気持ちにさせられるエピソードで印象深かったのです。