こんにちは共月堂です。
 今日は、少しだけ熱中症のお話を書かせていただきます。
 
 昨日ですが、少々熱中症に関して、誤解が有る発言を耳にしまして、気になった事も有り、私自身の確認も兼ねて熱中症とは何なのか?という事を書きたいと思います。
 
 熱中症という言葉は、ごく最近大きく取り上げられるようになったため「以前はそんな病気は無かったのに」という感覚をもたれる方が居るようです。実は、以前に使われていた熱射病などの、高温が原因で起こる障害の一連を熱中症として、ひとまとめに考えているのですね。ですから、熱中症という症状自体は遥か昔から存在しています。日射病なんていうのも、熱射病の別名ですから、今は熱中症という括りで考えられています。
 熱中症は、昔から有る「高温が原因で起こる症状の全体像」だと考えると解りやすいのかな?と思います。別に、唐突に出て来た新しい病気ではないのです。
 人の体は、大体37度前後に保たれています。この温度の状態が、体が一番活動しやすい温度だからです。体温そのものは肝臓などの代謝や、筋肉の運動によって作られていますが、それを感じて調節しているのが脳です。
 この状態が、外気温の上昇などの影響によって崩されてしまうのが熱中症です。
 外気温が体温よりも高いような状態になりますと特にそうですが、体温が37度よりも高くなって来ると、体は温度を下げようとして色々と活動を始めます。一番簡単なのは、汗をかき、その汗が蒸発する時の気化熱で体温を下げるという行為です。暑い時に汗をかくのは、汗の蒸発を利用して体温を下げる為なのですね。
 この、発汗という一連は、無意識に行われます。意志によって汗の量をコントロールをすることは、ちょっと無理ですよね。例えば、体を動かして汗をかこう!とかは出来ますが、汗を出す汗腺そのもをのを意志でコントロールは出来ません。汗をかくという体の行為は、体が無意識のうちに行っている、呼吸や心臓の拍動などと同じなのです。
 この汗というものには、色々なミネラルとよばれる、体の維持に必要な無機物も含まれています。ナトリウムやカリウムといった、汗に含まれるミネラルは、体の維持に非常に重要な働きをしています。そのため、体中に存在しています。汗がしょっぱいのは、汗に塩が、つまりナトリウムというミネラルが含まれている為です。つまり、汗を沢山かくということは、汗と一緒に沢山のミネラルが体外に出てしまう事も意味します。
 この状態が続くと、体のミネラルバランスが崩れ、その結果、痙攣が起こったりします。これを熱痙攣といい、熱中症の症状の一つとなります。日本の夏は、気温と一緒に湿度も上昇するため、汗が乾く速度が遅くなる傾向が有ります。つまり、汗による気化熱での体温低下が困難になるのですね。そうなると、体は体温を下げたいので、より多くの汗を放出します。これは、より多くのミネラルを失う事も意味します。
 日本での熱中症が多発する原因は、ココにも有るのですね。
 痙攣が起こらなくても、大量の発汗は、大量の水を失う事も意味します。人体の6割が水で出来ている都合上、人体より大量の水分の喪失は、実は深刻な問題となります。体の表面は汗によって温度が下がったとしても、体の中の水分が減少すると、体内の温度を一定にする事が困難になるのです。人体の6割を占める水は、実は保温能力としても機能しているのです。その水が大量に失われてしまうと、体は一定の温度を保つ事が出来なくなってしまいます。それが原因で、異様な疲労感を感じてしまう事が有ります。これが熱中症の症状の一つの熱疲労ですね。
 この症状は、自覚している以上に深刻で、早々に水分の補給が必要となり、できれば点滴での輸液が望ましいとされます。
 汗などで失った水分は、実は血液が由来の水分です。簡単に分類すれば、人体に有る水分は、血液と、それ以外です。そのなかで、主に流動する水分は血液由来のものとなります。ですので、大量の発汗は、血液の量が減る事を意味し、つまりは貧血のトリガーともなります。
 更に、体温を下げるため、体表近くの毛細血管は拡張し、体の末端の血流量が増加します。簡単に説明してしまえば、水冷車のラジエターと同じ原理です。体の表面近くの末端に大量の血液を集め、汗による気化熱での温度低下を血液に影響させ、血液の温度を下げる事で体温を下げようとするのですね。
 ですが、これも、体の中心部の貧血を呼びます。
 上の二つの要素が複合すると、急激な貧血を発生させ、失神することがあります。コレを熱失神といい、コレも熱中症の症状の一つです。
 こう言った症状が積み重なりますと、もう、脳の体温調節中枢がダウンしていまいます。そうなると、人の体は37度というベストの体温を維持出来なくなり、発熱がおこり、処置を怠ると、最悪、死に至ります。これを以前は熱射病(日射病)と呼んだ訳です。
 もう少し追加すると、外気温を感じる能力は、加齢によって低下します。よく、お年寄りが「自分は暑くない」と言っているのは、物理的に暑くないのではなく、暑さを感じる部分がダウンしているのですね。悲しい事では有りますが。とはいえ、コレは別にお年寄りだけの問題でもありません。暑さを感じる感覚は個人差がありますから。
 ここで気を付けていただきたいのが、暑さを感じないからといって、熱中症にならないとは言えない、ということです。
 外気温を暑く感じようが、感じまいが、人間の体温のベストの状態は、37度前後なのです。それ以上ですと最悪、蛋白質の変成が起こってしまい、最悪死に繋がりますし、それ以下だと、代謝が巧く機能せず、これも死につながります。
 ですから、この37度という体温が崩れそうになると、体は全く無意識で汗をかきますし、それによって無意識で水分、ミネラルを失います。そして、それは体温が下がるまで続くのです。個人の「暑い」「暑くない」という感覚とは余り関係なく、体温調整の機能は働き続けるのです。
 ですので、暑く感じない=熱中症にならない という訳でもないのです。熱中症と呼ばれる原因たちは、「高温による障害」という全く別の所に有るのですから。
 
 私たち医療に携わる者が、この時期にしつこいほど熱中症に気を付けて欲しいと言うのは、感覚とは別のルートで発症するからでなのです。しかも、防ぐのは簡単ですし。
 
 まず、炎天下での外出を避け、室内ではエアコンなどで気温を下げましょう。高温である状態を避けるだけで、熱中症は防げますから。エアコンだと寒過ぎるのであれば、是非、扇風機を利用して下さい。除湿も心がけましょう。汗が簡単に乾く状態であれば、体温を下げるが容易になりますから。そして、意識して水分補給をして下さい。スポーツドリンクなどを利用すれば、同時にミネラル分の補給も出来ます。
 コレだけで防げるものなのです。
 熱中症は、死に至るものです。是非、ご自愛ください。