こんにちは共月堂です。
 今日は、お灸の思い出の話を少しだけ。
 
 http://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/16.html
 28日は鍼灸師の国家試験になります。私も当然受験した訳ですが、沢山の思い出が有り実に感慨深いものが有ります。
 私はサラリーマンをしながら、鍼灸院などの見学もしながら、鍼灸の学校に通っていたため、国家試験の前後も仕事が重なっていて目が回りそうでした。学業も当然ですが、仕事の方も決算関係のまっただ中であり、試験の10日後にはロンドンとオランダの視察が入っていたりと、何とも忙しくも充実した日々でした。
 今日はそんな思い出話を少しだけ。
 鍼灸師の国家試験は筆記試験だけになります。実技があってこその鍼灸師なのに、と思われる方も多いでしょうが、実技試験は鍼灸学校の卒業試験として設定されていて、通っている学校単位で行われているのです。そして、学校の卒業が確定していないと国家試験の受験資格が貰えないという形になっています。ですから、実技試験もちゃんと存在します。
 私の学校では「卒業することは臨床に立つ事」という認識が強く、実際、教師の方の大半がご自身で鍼灸院をやっていたり、医師として活躍されている方で、臨床に強い拘りのある方々でした。ですので「形だけ出来ても意味が無い」ということで、卒業試験の実技は、模擬患者さんを相手にした診察、検査、施術という難度の高いものに設定されていました。実際、解剖学の試験も筆記だけでなく、模擬患者さんという患者さん役の方をベッドに寝かせて、その体をつかって筋肉や骨格の説明を時間内に口頭で説明する試験まであるのです。
 私たち学生は、この実技試験の対策を一年かけて練り上げて試験に臨むのです。
 今も、HDDの中には大量に試験対策に使った資料が残っています。先輩に貰った資料も大量に有るのですが、私が主に使ったものは、私が自分で作ったノートと、自分で集めた資料でした。やはり、手を動かさないと覚える事は出来ませんから。これら自作の資料は、今では臨床用として追記されたり改訂されたりして活躍しております。
 鍼も、灸も実技試験を受けましたが、共に実際に施術をするため非常に難しかったと記憶しております。患者さん役の人と向かい合う所からスタートし、規定時間内に指定された施術をするという、今では日常的に行っている行為では有りますが、当時の私は、随分ジタバタしたものです。
 お灸の実技は、たしか、全部の行程を4分で行うものでした。指定された経穴2穴に灸を3荘づつ据えて4分だっと思うのですが、少々記憶が曖昧です。3穴に3荘据えて5分だったかも。如何にせん、普通にやっていたら、ほぼ時間内に終わらない設定で、私たち学生は、どうやって時間内に全部を終わらせる事が出来るのか?という事を研究しながら、お灸という施術を研究する事になります。そうやって一年かけて準備するのです。
 最初に試験官に挨拶し、経穴名が書かれた紙を見せてもらいます。それから椅子に座っている患者さん役の方に挨拶し、何を行うかを説明してベッドに誘導。消毒の一連を行い、指定経穴2つに灸を3荘づつ据えて、消毒等を行って患者さんを椅子に座らせる所までの全てが4分の間に行う事になります。
 二年生の頃には1荘据えたらタイムアップも珍しくなかった一連も、練習すれば1分以上の時間を余らせて終了させる事が出来るのだから不思議なものです。私も平均で1分半を余らせて、終わらせるようになりました。その頃になると指先がモグサのヤニで茶色くなっていましたが。
 でも、その練習は決して無駄では有りませんでした。
 私が実技試験を受けたときの事です。名簿順で、私は後半の一番手になりました。試験会場に入室し、試験開始となり、練習通りに一連をこなして行きました。患者さん役の方もベッドに誘導し、手指消毒も終わり、いざ、ハンドラップを使って酒精綿を作ろうとしたときトラブルはやって来ました。ハンドラップを何度押してもアルコールが出て来ないのです。みるとハンドラップが消毒用アルコールで満杯に! ハンドラップは陰圧を使ってアルコールを吸い上げる機械です。それがアルコールで一杯になっていると何も吸い上げません。
 原因はすぐに思い当たりました。私は試験の一番手、つまり私の後に沢山の方が試験を受ける訳で、途中でアルコールが無くならないよう、たくさん補充されたのでしょう。ですが、それが、一番手の私には仇となってしまった、という。この試験に落ちたら卒業資格が消えてしまうという立場の私にとっては、本当に仇というしかないような状態でした。
 とはいえ、あせっても事態は好転しません。何より、臨床にはトラブルは付き物です。臨床力を試されている試験なのですから、自力で事態を打開しないといけません。
 無理矢理、自分を落ち着かせ、現状を患者さん役と試験官に事情を説明して、ハンドラップの交換をし、急いで施術。その間も、時間だけは淡々と過ぎて行きました。
 どうにか全ての行程を終わらせた時、試験時間は後数秒しか残っていませんでした。今でも、あの1分のアドバンテージが無かったら!と思うと血の気が引きます。ただ、同時に「それすらも、おそらくは試験の一つでは無かっただろうか」という思いも有るのです。
 今も、朝、院を開ける前にはハンドラップを含めた全ての器具の動作確認をしています。
 
 鍼灸師になる事は、非常に大きな挑戦だと思います。ですから、実際に鍼灸師として活動している私では有りますが、受験に臨む学生さんには「がんばって!」という応援の気持ちで一杯です。